東京高等裁判所 昭和53年(行コ)39号 判決 1981年2月24日
控訴人(原告) 一海知義
被控訴人(被告) 国
訴訟代理人 根本真 飯塚実 外六名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
第一当事者双方の求めた判決
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金七三二三円及びこれに対する昭和四六年一二月五日から右支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二当事者双方の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決事実摘示中「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決書三枚目表七行目に「(助教授)」とあるのを削り、同一〇行目に「原告は、」とある下に「昭和四六年一二月一日当時右大学の助教授として」を加え、同裏二行目に「以下」とあるのを「右当時適用されていたものをいうものとし、以下」と、同四行目に「昭和四六年一二月一日」とあるのを「右同日」と、同六行目に「以下」とあるのを「右当時適用されていたものをいうものとし、以下」と、同七行目に「一四条により、」とあるのを「規則一四条により」と、同一〇行目に「基準日以前の」とあるのを「基準日以前六か月以内の期間における」と改め、同末行の「別表第一」とあるのを削り、同四枚目表一行目に「により」とある上に「、別表第一」を加える。
二 原判決書四枚目裏三行目に「勤務時間内集会」とある下に「。以下「本件争議行為」という。」を加え、同七行目に「一〇条」とあるのを「一〇条、」と、同七行目から八行目にかけて「勤務期間」とあるのを「在職期間」と改める。
三 原判決書五枚目表一行目の次に次のとおり加える。
(1) 期間率算出の際規則一一条二項三号により在職期間から除算すべき期間は、時間単位ではなく、日単位と解すべきである。すなわち、期間率は、職員の勤務期間の区分に応じて定められるが(規則一〇条)、勤務期間とは在職期間であり(規則一一条一項)、在職期間の計算としては、わずかの時間でも在職すれば在職期間に入り、しかも、日未満の在職期間ということは考えられないから、期間率の期間に日未満はありえない。また、期間率算出に当たつて在職期間から除算すべきものとされている規則一一条二項各号所定の除算期間をみると、同項三号を除くその余の各号に掲げる期間は、いずれも基本的には月を単位とする相当長期の期間を想定しており、一日又は数日といつた短期間はごくまれな事例にすぎず、ましてその算定の単位を時間とするものを予定していないことは、その文言と関係法令を検討すれば明白である。これに対し、同項三号に掲げる除算期間については、給与法一五条による給与の減額が時間を単位としてされるため若干の疑問がないわけではないが、期間率が在職期間によつて算出されることを基にして考えてみると、本号についても、若干時間でも勤務すればその日は勤務したものとして計算すべきである。給与法一五条が給与の減額を時間単位で計算すべきものと定めているにもかかわらず、本号が「減額された時間」といわずに「減額された期間」といつているのも、その趣旨によるものと解される。更に、勤勉手当は、後に述べるように、能率給的性格を持つとともに生活給的性格をも持ち、その減額に当たつては、前者の能率給的性格からは不均衡な減額をしないことが、後者の生活給的性格からはなるべく大きな減額をしないことが当然に要請されるから、この点からも、規則一一条二項三号の「期間」は日単位と解するのが合理的である。そして、右の解釈の妥当であることは、昭和三八年給実甲第二二〇号「期末手当および勤勉手当の支給について(通知)」の八項及び昭和四三年職職第一〇三六号「人事院規則一五―六(休暇)の運用について(通知)」の第三項関係が時間を日に、日を月に換算する方法を規定し、勤務期間の除算単位が日以上であり、勤勉手当の期間計算上一日に満たない欠勤というものを予想していないところからも、裏付けられる。また、地方公務員については、国家公務員に準じた給与の定めが各県条例等で定められているが、勤勉手当についても同様の定めがされており、特に期間率決定の基礎となる勤務期間については、規則一〇条、一一条とほぼ同様の定めが条例等で定められているものの、ほとんどの地方自治体においては、運用又は規定の明確化により少なくとも一日未満の欠勤は勤怠評価の中で消極的評価の対象にしないようにしており、これは、全国的にほぼ確立した取扱いになつているといいうるのである。
四 原判決書五枚目表二行目に「(1)」とあるのを「(2)」と改め、同六行目に「実際には」とある上に「勤勉手当制度の立法趣旨からすれば、それは、ある程度の勤務成績を考慮するといつた程度のものであり、」を加え、同裏二行目に「一〇条」とあるのを「一〇条、」と、同三行目に「に満たない」とあるのを「以内である」と、同六枚目表三行目に「基本とする」とあるのを「も併せ持つ」と改め、同三行目に「従つて」とある上に「ちなみに、給与法一九条の四第二項後段において勤勉手当のいわゆる原資に扶養手当をも含ましめているのも、一つには原資を増やすためではあろうが、同時に勤勉手当の生活給的性格を配慮したためでもあると解される。」を加え、同一〇行目に「一率」とあるのを「一律」と、同七枚目表五行目に「未満の」とあるのを「以内の」と、「勤務した期間」とあるのを「在職期間」と、同裏一行目に「勤務時間」とあるのを「在職期間」と、同九行目に「生活給的性質」とあるのを「生活給的性格、」と改める。
五 原判決書八枚目表九行目から九枚目裏三行目までを削る。
六 原判決書九枚目裏四行目の「(2)」から同五行目の「としても」までを「(3) また」と改める。
七 原判決書一〇枚目表一〇行目から一一枚目裏五行目までを次のとおり改める。
(4) 給与法一五条、規則一一条二項三号、同条一項、一〇条、別表第一による勤勉手当の減額は、直接的、外形的には、給与法一五条による給与の減額を理由として行われるが、争議行為参加による欠勤を理由として給与の減額が行われ、次いで、その給与減額を理由として勤勉手当の減額が行われるときは、実質的にみれば、勤勉手当の減額は、給与の減額という手続を経由して争議行為参加に対して加えられる経済的不利益ということができる。換言すれば、争議行為に参加した者は、給与の減額のほかに、更に勤勉手当の減額という不利益を受けるといつてよい。このような給与の減額と勤勉手当の減額とが争議行為参加に対する制裁としての実質を有するものであることは、明らかといつてよい。のみならず、給与法令の運用の実際をみても、現実の勤務関係においては、争議行為参加以外の事由によるごく短時間の欠勤は、そのまま放置されることが多く、給与の減額さえ行われないため、勤勉手当の減額が行われないにもかかわらず、争議行為参加による欠勤となると、当局は、やにわに厳格な態度で臨み、細大もらさず欠勤時間を監視、記録し、給与の減額及び勤勉手当の減額を行つており、勤勉手当の減額が争議行為参加に対する制裁として行われていることが明らかである。以上のように、勤勉手当の減額は、争議行為参加に対する制裁としての実質を持たされているのであるが、国家公務員法(以上「国公法」という。)は、職員の規律違反については懲戒処分の制度を設け、懲戒処分の種類及び効果をみずから法定し、又は、人事院規則によつて定めるべきものとし、右以外の懲戒ないし制裁を許さないものとしているから(同法七四条二項、八二条、八三条)、争議行為参加による欠勤についてされる勤勉手当の減額は、法定外の懲戒ないし制裁であつて、違法たるを免れない。
(5) また、労働基本権の制限は合理性の認められる必要最小限度にとどめなければならず、たとえ争議行為禁止規定に違反する争議行為であつても、これに対する制裁は過酷なものであつてはならないことは、労働基本権を保障した憲法二八条の要請するところであり、また、国際労働常識の支持するところでもある。ところが、本件のように、たとえ一時間でも争議行為に参加した職員に対し、当該一時間分の給与の減額に加えて、勤勉手当についても当然に期間率を一〇パーセント減じた分減額することは、争議行為に対する過酷な制裁としての効果を持つことが明らかであるから、勤勉手当算出に当たり争議行為参加によつて勤務を欠いた期間を考慮することは、前記憲法上の制約及び国際労働常識に違背し、許されない。
八 原判決書一一枚目裏末行から同一二枚目表一行目にかけて「裁量権を逸脱した」とあるのを削る。
九 原判決書一二枚目表一〇行目に「裁量権を逸脱した」とあるのを削り、同裏一行目から同末行の「能率給的性格に照し、」までを「(1) 勤勉手当は、前述のように、生活給的性格とともに能率給的性格を有するものであるから、能率給としての合理性、すなわち、勤務成績との対応関係を著しく失することがあつてはならないとの客観的な制約が存するのであり、勤勉手当の支給に当たつて」と改め、同一三枚目表一行目から同二行目にかけて「、なお、裁量権の逸脱があつたものとして」を削り、同裏五行目から同七行目の「いえるから」までを「控訴人が勤務を欠いたのは、わずかに右のような取扱いとなつていた自宅研修時間一八分間ということになり、形式的、名目的には欠勤になるとしても、実質的には欠勤とさえいいえないものであり、勤務能率への実質的影響も絶無であつたことからみて」と改め、同八行目に「勤勉手当」とある上に「七三二三円もの」を加え、同九行目から一〇行目にかけて「勤勉手当の生活給的性格に照らしてはもとより、」とあるのを削り、同末行に「照らしても」とあるのを「照らし」と、同末行から同一四枚目表一行目にかけて「取扱として裁量権を逸脱した違法がある」とあるのを「違法たるを免れない」と改め、同一行目から同二行目にかけての「さらに」から同一〇行目までを削り、同一行目の次に次のとおり加える。
(2) 前述のように、労働基本権の制限は合理性の認められる必要最小限度にとどめなければならず、たとえ争議行為禁止規定に違反する争議行為であつても、これに対する制裁は過酷なものであつてはならないとの憲法上の制約が存するところ、控訴人の本件争議行為参加による欠勤は、前述のように、極めて軽微なものであるから、これを一か月未満の欠勤と同視する本件勤勉手当減額措置は、争議行為に対する過酷な制裁たるを免れず、違法というほかない。
一〇 原判決書一五枚目表三行目に「(2)、(3)」とあるのを「(2)ないし(5)」と改める。
一一 原判決書一五枚目裏末行に「第一五条関係の四」とあるのを「第一五条関係の4」と、同末行から同一六枚目表一行目にかけて「第一六条関係の二(3)」とあるのを「第一六条関係の2(3)」と、同五行目に「一〇条」とあるのを「一〇条、」と改める。
一二 原判決書一六枚目表末行の次に次のとおり加える。
(1) 控訴人は、勤勉手当の期間率は職員の勤務期間の区分に応じて定められている(規則一〇条)ところ、その勤務期間とは在職期間のことであり(規則一一条一項)、また、在職期間の計算には日未満ということはありえないから、規則一一条二項三号にいう「給与を減額された期間」も日単位で計算すべきである旨主張する。しかしながら、規則一一条一項において「前条に規定する勤務期間は、給与法の適用を受ける職員として在職した期間とする。」と規定する趣旨は、単に給与法の適用のない職員としての在職期間を勤務期間から除くことにあるものと解され、それ以上に勤務期間及び除算期間の計算について日未満の時間を切り捨てる趣旨までを含むものとは解されない。一方、規則一一条二項三号は、明文をもつて、「給与法第十五条の規定により給与を減額された期間」を勤務期間から除算すると定めているところ、給与法一五条は、給与の減額につき一時間を単位として減額すると定めているから、規則一一条二項三号に定める勤務期間から除算される期間が時間単位で計算されるべきものであることは、文理解釈上明瞭である。同項一、二、四、五号は、同条にいう勤務期間の最小単位が時間であることを排除するものではないし、また、昭和三八年給実甲第二二〇号「期末手当および勤務手当の支給について(通知)」の八項及び昭和四三年職職第一〇三六号「人事院規則一五―六(休暇)の運用について(通知)」の第三項関係は、いずれも、時間を日に、日を月に換算する場合の基準を定めたにすぎないものであつて、一日に満たない期間(時間)を期間計算から排除する旨を定めたものではない。なお、地方公務員については、国家公務員と同種の手当制度が条例等で定められているが、国家公務員に対する勤勉手当制度は、法令に基づき国家公務員法体系の一環として定立、解釈、運用されるべきことは当然であり、国家公務員に対する勤勉手当の支給につき民間企業、地方公務員における勤勉手当相当の給与支給の実情等を考慮すべしとすることは、立法論、政策論にすぎず、また、地方公務員等に対する給与支給の実情等が規則一一条二項三号の前記解釈を左右するものでもない。
一三 原判決書一六枚目裏一行目に「(1)」とあるのを「(2)」と、同一七枚目表二行目に「一〇条」とあるのを「一〇条、」と、同八行目に「勤務に」とあるのを「勤務が」と改め、同裏五行目から同一八枚目表二行目までを削り、同三行目に「一〇条」とあるのを「一〇条、」と、同裏九行目に「異り」とあるのを「異なり」と改め、同末行から同一九枚目裏八行目までを削る。
一四 原判決書一九枚目裏九行目から同二〇枚目裏四行目までを次のとおり改める。
(3) 控訴人は、被控訴人が本件勤勉手当を算出するに当たり期間率を一〇〇分の九〇としたことは、控訴人が本件争議行為に参加したことに対する実質上の制裁であるとしたうえ、右は、法定外の懲戒ないし制裁に該当し、また、争議行為に対する制裁として過酷なものであり、違法であると主張する。しかしながら、被控訴人の右措置は、規則一〇条、一一条の適用上、控訴人には基準日以前六か月間において給与法一五条により給与を減額されたことがあつたことに基づきとられたものであり、しかも、その際、右給与減額の理由のいかんは全く斟酌されないのであるから、被控訴人の右措置が本件争議行為に参加したことに対する制裁であると解すべき余地は全くない。なお、控訴人は、争議行為参加による欠勤の場合とそれ以外の事由による欠勤の場合とで被控訴人の取扱いが異なり、後者の場合には短時間の欠務は不問に付されているかのごとき主張をするが、そのような事実は全くない。ただ、争議行為参加以外の事由による欠勤の場合にあつては、本人からの申請により右欠勤時間が年次有給休暇として処理され、給与の減額にまで至らないということがありうるため、その場合に限り、結果的に右欠勤が勤勉手当の期間率に影響を及ぼさないということが考えられるにすぎない。また、控訴人の前記主張は結局争議行為に伴う欠勤により給与を減額された期間については他の事由により給与を減額された期間に比しより有効な取扱いをすべしというに帰するものであるが、国公法九八条二項の規定からみても特にそう解すべき理由はない。したがつて、被控訴人が控訴人の本件勤勉手当の期間率を一〇〇分の九〇とした措置は、法令に従つてされたものであるにすぎず、特に争議行為に対する制裁としての意味を有するものということはできないから、右措置が控訴人の本件争議行為参加に対する制裁であることを前提とする控訴人の主張は、失当といわざるをえない。
一五 原判決書二〇枚目裏六行目から同末行までを次のとおり改める。
控訴人は、本件勤勉手当の期間率算出に当たり本件欠勤時間を取り上げて勤勉手当の減額を行うことは、勤勉手当の能率給的性格に照らし著しく合理性を欠くものであると主張するが、法令は勤勉手当の支給に関し欠勤時間が皆無である場合とそれ以外の場合とを明白に区別しているのであり、また、右法令を特に不合理とみなすべき理由がないことは前記のとおりであるから、本件のように給与法一五条により給与を減額された期間が一時間の場合であつても、法令の適用上無視することができないのは明らかである。
一六 原判決書二一枚目表六行目に「研修期間」とあるのを「研修時間」と改める。
第三証拠関係<省略>
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと判断するものであり、その理由は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決書二三枚目裏四行目に「伴ない」とあるのを「伴い」と、同五行目に「当り」とあるのを「当たり」と、同七行目に「一〇条」とあるのを「一〇条、」と改める。
2 原判決書二四枚目裏五行目に「四、」とあるのを「4、」と、「二(3)」とあるのを「2(3)」と、同七行目から八行目にかけて「当り」とあるのを「当たり」と改める。
3 原判決書二四枚目裏末行に「伴ない」とあるのを「伴い」と、同二五枚目表三行目に「ない」とあるのを「ないものというべきところ、控訴人は、被控訴人のした右勤勉手当算出を種々論難するので、以下控訴人の主張について判断することとする。」と改める。
4 原判決書二五枚目表三行目の次に次のとおり加える。
3 勤勉手当の期間率算出に当たつて規則一一条二項三号により在職期間から除算すべき期間は、時間単位ではなく、日単位と解すべきであるとの主張(第一次請求原因(四)(1))について
(一) 控訴人は、その論拠として、期間率は職員の勤務時間に応じて定められているところ、勤務期間とは在職期間のことであり、在職期間の計算としては、わずかの時間でも在職すれば在職期間に入り、しかも、日未満の在職期間ということは考えられないことを挙げる。しかしながら、一日に満たない時間の在職を一日の在職として評価し取り扱うべきか、それとも当該時間の在職として評価し取り扱うべきかは、それぞれの規定の趣旨によつて定まることであつて、控訴人主張のように、一日に満たない時間の在職でも常に当然に在職期間一日として評価し取り扱うべきであるということはできない。
(二) 控訴人は、また、前記主張の論拠として、規則一一条二項三号を除くその余の各号がいずれも時間を単位とするものを予定していないことを挙げる。しかしながら、右三号を除くその余の各号にいう期間が日以上を単位としているのは、右各号にいう期間が制度上、社会通念上日以上の単位で算定するのを相当とする性質のものであるためであり、右三号にいう期間が時間単位で算定すべきことを否定する論拠とはなりえない。
(三) 控訴人は、また、前記主張の論拠として、勤勉手当が生活給的性格を有することを挙げる。しかしながら、後に説示するように、勤勉手当の基本的性格は業績報償給であると解され、その点からすれば、六か月の在職期間につき全く勤務を欠いた期間を有しない職員とたとえ一時間でも勤務を欠いた期間を有する職員との間で勤勉手当の期間率に差異を設けることには合理性があるというべきであるから、右論拠もまた理由がない。
(四) 控訴人は、更に、前記主張の論拠として、昭和三八年給実甲第二二〇号「期末手当および勤勉手当の支給について(通知)」の八項及び昭和四三年職職第一〇三六号「人事院規則一五―六(休暇)の運用について(通知)」の第三項関係を挙げる。しかしながら、右各通知は、単に、時間を日に、日を月に換算する方法を説明したものにすぎず、勤勉手当の期間率算出に当たり在職期間から除算すべき期間が時間単位であることを否定する論拠とはなりえない。
(五) 控訴人は、また、前記主張の論拠として、地方公務員の勤勉手当に関する条例等及び運用の実態を挙げる。しかしながら、国家公務員の勤勉手当制度と同様の勤勉手当制度を持つ地方自治体において、条例等の明文化により又は運用により、一日未満の欠勤を勤勉手当の算定上消極的評価の対象にしていないからといつて、規則一一条二項三号の解釈が左右されるものではなく、ことは立法政策の問題に帰着するにすぎない。
(六) 以上検討してきたところから明らかなように、控訴人が、勤勉手当の期間率算出に当たつて規則一一条二項三号により在職期間から除算すべき期間は、時間単位ではなく、日単位と解すべきであるとする主張の論拠として挙げるところは、いずれも理由がない。
そして、規則一一条二項三号は、給与の減額につき一時間を単位として減額すると定めている給与法一五条の規定により給与を減額された期間を在職期間から除算すると定め、その文理上右除算期間を時間単位と解すべき文言になつていること、勤勉手当の基本的性格は後述のように業績報償給であると解され、この点からすれば、六か月間皆勤した職員とたとえ一時間でも無承認欠勤をした職員との間に勤勉手当の期間率の適用について差異を設けることは合理性があるものと認められ、これが規則一一条二項三号の趣旨と解されることに照らし考えれば、勤勉手当の期間率算出に当たつて同号により在職期間から除算すべき期間は、日以上の単位であることを要しないものと解するのが相当である。
したがつて、控訴人の前記主張は、採用することができない。
5 原判決書二五枚目表四行目から同裏二行目までを次のとおり改める。
4 一日の勤務時間に満たない程度の欠勤があるにすぎないような場合には、勤務期間を六か月と評価すべきであるとの主張(第一次請求原因(四)(2))について
6 原判決書二五枚目裏三行目から同一〇行目の「検討する。」までを「(一) 控訴人は、右主張の論拠として、勤勉手当が生活給的性格を有することを挙げる。(1)」と、同二八枚目裏六行目に「業績報償性」とあるのを「業績報償給としての基本的性格」と、同二九枚目表四行目に「専従休職者、」とあるのを「専従休職者」と、同三〇枚目裏二行目に「これを除外し」とあるのを「、扶養手当を勤勉手当のいわゆる原資として考慮するにとどめ、」と、同四行目から五行目にかけて「ことを定めているにとどまるのであり、このことは」とあるのを「ものと定めていることも、」と改め、同七行目から同三一枚目裏二行目までを削り、同三行目に「原告は」とある上に「(2)」を加え、同八行目に「当つ」とあるのを「当たつ」と、同末行に「もちろん」とあるのを「もつとも、成立に争いのない乙第二、第五号証によれば、勤勉手当制度が立法化された第一五回国会における質疑応答において、勤勉手当は六月及び一二月には生計費が膨張するという日本的生活慣習に即応するものである旨の説明がされていたことが認められ、また」と、同三二枚目表三行目の「一般的現象」から同七行目の「ところである。」までを「一般的現象が現実の実態として存在することは否定しえないところであるが、そのことが直ちに勤勉手当の基本的性格が業務報償給であることを左右するものではない。(3)」と改め、同八行目に「対応関係」とある上に「比例的」を加え、同末行の「さらに」から同裏五行目までを「(4) 更に、控訴人は、勤勉手当の成績率の決定が勤務成績を反映するものとなつておらず、全く同一の成績率を定めるか又はごく形式的に差異のある成績率を定めるという運用の実情にあることをもつて、勤勉手当の生活給的性格を裏付けようとする。そして、証人佐々木敏昭の証言によつて真正に成立したものと認める甲第四六、第四七号証、右証人及び証人筒井孝次の各証言によれば、東京大学においては勤勉手当制度が実施されてから現在に至るまで、また、神戸大学においても昭和四三年六月期を除いて現在に至るまで、成績率が一律に決定されるような運用がされていることがうかがえる。しかしながら、右のような運用が国家公務員の勤勉手当制度の運用の一般的現象であるとまで認むべき証拠はないのみならず、右のような運用は勤務成績に応じて支給されるべきものとされている勤勉手当制度の法意(給与法一九条の四、規則九条参照)に反するものであつて、一部に右のような運用がされているからといつて、勤勉手当の業績報償給としての基本的性格に変化を来すものではない。」と改める。
7 原判決書三二枚目裏六行目から同三三枚目裏七行目の「ところで」までを「(二) 控訴人は、また、期間率は、原則として一律に支給されるべき生活給たる勤勉手当について、ある程度長期にわたつて勤務を欠いた者と全期間を皆勤した者との実質的公平を図ろうとするものであるとし、このことを前記主張の論拠の一つとして挙げる。しかしながら、勤勉手当の基本的性格は前示のように勤怠評価に基づく業績報償給であるところ、そのうち期間率は、勤務期間という視点から基準日前六か月間の勤怠評価を行い、勤務期間の長短により勤勉手当の支給率に差異を設け、実質的公平を図ろうとするものであるから、全期間を皆勤した者とたとえ一時間でも勤務を欠いた期間を有する者とで期間率の適用について差異を設けることには、合理性があるというべきである。そして、」と、同三四枚目表九行目に「一〇条」とあるのを「一〇条、」と、同三五枚目表三行目に「ある。」とあるのを「ある」と、同末行の「本件」から同三七枚目表七行目までを「以上の諸点を考慮すれば、一日の勤務時間に満たない程度の欠勤があるにすぎないような場合でも、これを六か月間皆勤した場合と区別し、勤務期間「六か月」でなく「五か月以上六か月末満」と評価することは、前記期間率の趣旨からも十分に合理性があるというべきである。したがつて、期間率の趣旨は、控訴人の前記主張の論拠とはなりえない。」と改める。
8 原判決書三七枚目表七行目の次に次のとおり加える。
(三) 控訴人は、更に、前記主張の論拠として、一般民間企業及び大多数の地方自治体において一日未満の欠勤を賞与ないし勤勉手当の減額の対象としていないことを挙げる。しかしながら、民間企業及び地方自治体における勤勉手当制度の運用の実情が控訴人主張のようなものであるとしても、それによつて規則一一条二項三号の解釈が左右されるものではない。
(四) 以上検討してきたところによれば、控訴人が前記主張の論拠として挙げるところはいずれも理由がなく、右主張は採用することができない。
9 原判決書三七枚目表八行目から同三八枚目裏三行目までを次のとおり改める。
5 争議行為参加による欠勤は本来勤怠評価の対象となしえないものであるから、右欠勤をとらえて期間率を減じたことは、給与法一九条の四、規則一一条二項三号の解釈を誤つたものであるとの主張について
しかしながら、争議行為は、集団的労使関係における労働者の集団的行動ではあるが、その集団性ゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではないから(最三小判昭和五三年七月一八日民集三二巻五号一〇三〇頁参照)、国家公務員が違法な争議行為に参加して欠勤した場合(なお、国家公務員について争議行為を禁止した国公法九八条二項が合憲であることについては、最大判昭和四八年四月二五日刑集二七巻四号五四七頁参照)に、右欠勤を勤怠評価の対象となしうることは当然のことというべきである。したがつて、控訴人の右主張は、その前提において既に失当であつて、その余の点について論及するまでもなく、採用することができない。
6 争議行為参加による欠勤について勤勉手当を減額することは、争議行為参加に対する制裁としての実質を有し、法定外の懲戒ないし制裁として違法であるとの主張について
しかしながら、規則一一条二項三号は、無承認欠勤を理由として給与法一五条により給与を減額されたという事実があれば、その事実のみを勤怠評価における消極的評価要素とみて、これを期間率に反映させようとするものであつて、その際、給与減額の理由が争議行為参加による欠勤であつたことは斟酌されないのである。また、控訴人は、争議行為参加による欠勤の場合とそれ以外の事由による欠勤の場合とで当局の対応の仕方が異なることを理由に、争議行為参加による欠勤についてされる勤勉手当の減額は争議行為参加に対する制裁として行われているというが、国家公務員については法律上争議行為が禁止されているのであるから、当局が違法な争議行為に参加した国家公務員についてそれによる欠勤時間を監視、記録することは当然のことであり、その結果として右欠勤につき給与の減額及び勤勉手当の減額が行われることは、これまた法令上当然の措置というべく、右勤勉手当の減額をもつてことさらに争議行為参加に対する制裁として行われているものとみるのは当を得ない。したがつて、控訴人の前記主張も採用することができない。
7 争議行為参加による欠勤について勤勉手当を減額することは、争議行為に対する過酷な制裁であり、憲法二八条等に違反するとの主張について
しかしながら、争議行為参加による欠勤について勤勉手当の減額が行われても、それをもつて争議行為参加に対する制裁とみる余地のないことは、右にみたとおりであるが、それをしばらく措くとしても、前示のように、勤勉手当の業績報償給的性格からすれば、六か月間皆勤した職員とたとえ一時間でも無承認欠勤をした職員との間で勤勉手当の期間率の適用について差異を設けることには合理性があると認められること、及び規則一〇条、別表第一のように勤務期間を八段階に区分してこれに対応する期間率を定める場合、一つの区分と他の区分との切れ目の前後においては勤務時間の差異は僅少であるのに、期間率の差は画然として現われるが、このような期間率の定め方も合理性を有するものと認められることにかんがみれば、全期間を皆勤した者との対比において一時間の無承認欠勤をした者について期間率を一〇パーセント減少することになつたとしても、いまだこれをもつて不合理であるとか過酷にすぎるということはできない。したがつて、いずれにしても、控訴人の右主張もまた採用することができない。
10 原判決書三八枚目裏四行目に「5」とあるのを「8」と改める。
11 原判決書三八枚目裏七行目から同三九枚目表一〇行目までを次のとおり改める。
控訴人の主張の要旨は、本件勤勉手当減額措置は、勤務成績との対応関係を著しく欠き、勤勉手当の能率給的性格に照らし著しく合理性を欠くものであり、また、争議行為参加に対する過酷な制裁であり、違法である、というにある。
そこで検討するに、控訴人が昭和四六年七月一五日本件争議行為に参加し、同日午前八時三〇分から同九時一八分までの四八分間欠勤したことは、前示のとおりであり、また、成立に争いのない乙第一八号証、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、本件争議行為当日は木曜日に当たるところ、控訴人が神戸大学長から承認を受けた昭和四六年度の勤務時間割振りによれば、控訴人の木曜日の神戸大学における勤務時間は午前八時三〇分から同一〇時三〇分まで及び午後七時から同一〇時までの合計五時間であつたこと、また、本件争議行為当日は、神戸大学の夏季休業期間中に当たり、夏季休業期間中は、教官は自宅研修が認められていたこと、以上の事実を認めることができる。そして、控訴人は、神戸大学においては、始業時刻が午前八時三〇分とされていても、実際には午前九時を始業時刻とする運用がされているとか、教官の研修時間については各人の自由な取扱いが認められていたと主張し、証人山中昌昭、同筒井孝次の各証言及び前掲控訴人本人尋問の結果中にはこれにそう部分も存するが、国立大学の教官の勤務時間等の勤務条件は、法令に基づいて明確に定められており、これと異なる慣行ないし取扱いを法認する余地はないのであるから、控訴人主張の始業時刻及び研修時間に関する運用ないし取扱いの存在は、午前八時三〇分から同九時までの勤務時間及び研修時間について教官の職務専念義務を免除するものではないし、また、給与法令の適用上斟酌することも相当でない。そして、前示のように、給与法令は、基準日前六か月間について皆勤した者とたとえ短時間でも欠勤し給与を減額された者とを明白に区別し、勤勉手当の期間率の適用について差異を設けているのであり、しかも、右給与法令の定めは合理的であると認められるのであるから、本件において、控訴人が本件争議行為に参加して四八分間欠勤したことについて給与法一五条により一時間分の給与を減額され、その結果として規則一一条二項三号、同条一項、一〇条、別表第一により勤勉手当を七三二三円減額されたことは、給与法令の適用上当然の措置であり、右措置をもつて不合理であるとか過酷にすぎるとかいうことはできない。
よつて、控訴人の第二次請求もまた、理由がない。
二 以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 林信一 宮崎富哉 石井健吾)